これはスピーカーではない-Das ist kein Lautsprecher-

これは20Hz〜20000Hzの音を出すスピーカーではない。またこれはジャズ、クラシック、ロックを聴くスピーカーでもない。マイルス・デーヴィス、フルトヴェングラー、そしてビョーク等の特定の演奏家の意図と意志の解析装置である。

録音されたメディアの8000Hz以上、50Hz以下に演奏情報は入っていない。したがってこれは断念する。演奏会に通う方、自ら演奏される方がより近接した演奏情報を得るためのオペラグラス、望遠鏡、顕微鏡である。速度、ダイナミックレンジ、純度という過渡特性その一点のみを追究したリアリズム装置である。

思想なき技術に基づく常識を疑う
これまで、ほぼすべてのスピーカーシステム設計に関しては、以下の四つの誤った常識を前提として出発してきた。

1)エンクロージャー(キャビネット)は不可避の所与である。 
現在のほとんどのスピーカーが採用しているこの方式は、実は、ボックスおよびその内部空気の共振が原音を著しく汚すのみならず、振動板にかかる背圧が振動板の動きを抑制するという二つの根本的欠陥がある。

2)振動板の振動による反作用は存在しない。 
振動板にかかるのとまったく同等の反作用の力が実は、マグネット、それを支えるフレーム、それを固定するエンクロージャーにかかっている。この結果、振動板以外のこれらのものが振動し、その結果原音を著しく汚すのみならず、動くべき振動板の代わりに、フレームやマグネットが動くことにより、エネルギーの大いなるロスが生じる。

3)マルチウェイは正しい解である。 
近代科学を席巻していた、全体は一旦分割しても事後的に再構成しうるというフランケンシュタイン的な信仰がスピーカー領域で発揮され、それが現代でも依然支配的である。とはいうものの、一般的なフルレンジ・スピーカーシステムは、戦前以来いかなる発展もなく、古色蒼然としている。フルレンジ派は死滅したも同然である。

4)周波数平坦特性こそ最優先事項である。 
1960年代以降、スピーカー設計者は自らの耳で確かめることよりも、音響の一側面のみしか測定できない測定器を盲信し、周波数特性を過度に重要視することとなった。しかし人間が音楽において聴こうとしているのは、周波数特性の平坦さではなく、生きた演奏である。演奏とはすなわち時間軸におけるエネルギー分布を規定することである。その基準こそ過渡特性である。

発明家・武宮氏の革新的手法
当社はフルレンジを採用している。発明家・武宮寿一氏が87歳の時にその原型を考案し、後にそれをさらに当社が実用的に発展させた、新方式の特許を採用によって、ゾルゾ・スピーカーの網羅する帯域は従来のいかなるフルレンジ・スピーカーよりも比較を絶するほど広い。一般にドライヴァー固有の最低共振周波数は、箱に入れることによって、上昇するが、当社の特許方式を採用することで、(原理的には最低共振数は1/√2倍まで下がる)裸特性に比べ、20%まで下降する。この結果、元来、狭い帯域しか確保できなかったフルレンジでも十分な広帯域を網羅するに至った。
特許によるゾルゾ社の革新的ドライヴァーをオープンバッフルに装着することにより、以下の三点を同時に実現した。1)ピュア・フルレンジであること、2)エンクロージャーからの完全な脱却、3)振動板反作用の根本的解消。この鼎の脚のいずれの一本が欠けても鼎は倒れる。これと同じように、Zorzoは、この三課題を同時に解決することによって優れた過渡特性を獲得した。ゾルゾは、21世紀が生んだ革命的音響装置である。その音は極限までリニア・タイト・クイック・クリア、革新的音響を求めているオーディオマニアは別として、およそ在来的オーディオマニア向けのものではないことを付言しておく。